新型コロナウィルス(COVID-19)感染症と子ども――「子どもの権利/社会権」を保障する社会へ

新型コロナ:パンデミックの中で迎えたゴールデンウイーク。3日の憲法記念日も大規模集会は自粛、生活者ネットワークも毎年参加する市民グループが開いてきた、「平和といのちと人権を!5・3憲法集会」も、今年ばかりは国会前を会場に憲法学者らのスピーチを中継する形だ。中継で稲正樹元国際基督教大教授(憲法)は、「新型コロナ危機下で、国は、憲法の生存権保障の規定にもとづき、私たち国民を生命侵害の危険から保護する責任がある。不要不急の憲法審査会開催強行を許してはいけない」と強調。浅倉むつ子早稲田大名誉教授(労働法)は、「優先課題は、最も弱い立場の人が安全に生きられる社会。危機的事態において、憲法を貫く平和主義と反暴力の考え方を世界に発信こそすべきときだ」と訴えた。

新型コロナウイルスの感染拡大は、続く5日の子どもの日の風景をも変えてしまった。突然の学校休校宣言から始まった安倍首相の新型コロナ感染症対策。全国一斉休校の要請を、最も影響を受ける当事者:子どもたちはどのように受け止めたのだろうか。突然活動が制限される中、子どもたちはどう感じていたか、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(子ども支援NGO)が、全国の小学1年生から18歳を対象に緊急アンケートを行った。「急に決めずに受け皿をちゃんと用意してからにしてほしかった」「一斉休校が必要な根拠や効果をわかりやすく説明してほしい」など、子どもたちが、この状況について十分な説明を受けておらず、置きざりにされている不安や不満を抱いていることが見て取れる結果であった。

 

新型コロナ(COVID-19)感染症対策—―子どもに向け記者会見を実施した国:デンマークとノルウェー

 

一方で、パンデミックを前に子どもの社会権、子どもの最善の利益にできうる配慮を行った国もある。

デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は、デンマークでコロナウィルスが急速に広がり、800人の感染者が確認された3月13日を期に、学校や公共施設の閉鎖、物資の流通や非常事態を除いた自国への出入りを1カ月間禁止するなど素早い対応を決断。若者が社会的に尊重される国デンマークで7歳頃からすでに政治の世界に興味を持ち41歳で首相となった、そんなメッテ・フレデリクセンが行ったのが、「子ども向け記者会見」だ。全国的に2週間学校が休みになり、隔離対策(自宅待機)になったことに関して、日ごろ7歳から12歳向けに放送しているニュース番組の中で「子どものための記者会見」という形で放送。新型コロナウィルスに関する、子どもから送られてきた質問に、フレデリクセン首相が直接答えていく。

例えば、「 外出しても大丈夫。むしろ、ぜひ外に出かけてほしい。森や自然の中での散歩などは心身に非常によいことです。ただし、お互いから距離を取ることを忘れないで」「お誕生日おめでとう。残念ですが、22人が一斉に集まるお誕生日会は多すぎるので、延期することを勧めます」「なるほど、私が感染することもあり得ます。その場合は、首相としての仕事を自宅隔離の状態で続けるつもりです」等々。

同様に子どもへの記者会見を開いたもう一人の女性首相が、ノルウェーのソールバルグ首相だ。新型コロナの影響で、子どももストレスや不安をためはじめていた316日、ソールバルグ首相は、「子どもに向けた記者会見」を実施。 コロナ感染症を説明するにあたり、「こんなにもたくさんのことが、一度に起こっているのですから、感染しないかと、ちょっと怖くなったりしてもいいのです」「でも子どもが、パパやママ、健康な大人が感染しても、大抵は治ります。けれど、病気の人やお年寄りのように、感染するとあぶない人もいますから、気を付けてあげましょう」「お誕生日会がキャンセルになって友だちに会えないのは、つまらないけれど、でも、みなさんが家にいれば、病気にならずにすみます」などと発信。首相のほか、教育大臣と、子ども・家族大臣とが一緒に、子どもたちからの質問にていねいに答えていった。

 

国連・子どもの権利委員会「新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する声明」を共有し、地域から実施に向ける

 

子どものために、やさしく、わかりやすい言葉遣いで異例の記者会見を開いた、いずれも女性首相が政府を率いる国:デンマークとノルウェー。ここから見えるのは、その国づくりの土台のさま。「子どもは国を構成する一人の国民である」ことが当たり前で、「小さい頃から政治に親しむ環境やプラットフォームがある」のが社会、「若者を大事にする、若者優先社会」であることだ。

日本も批准している国連「子どもの権利条約」第 12 条では、「子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の見解を表明する権利を保障し、その見解を正当に重視すること」を締約国に求めおり、この48日には、「国連・子どもの権利委員会:新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する声明」で、その重要性と個別具体策を各国に示唆している。

事態が深刻化し終息が見通せない今だからこそ、子どもの理解度に合わせた情報提供と発言の場が欠かせない。子どもの権利条約の4つの原則んpうち3つは、「生存」「発達」の権利、「保護」される権利だ。これに照らせば、公園や園庭、学校校庭の開放、代替給食が必要な子どもの食や学び支援は、一体確保されているか。生活に困窮する学生への就学支援ももはや生命線だ。そうであればなおさら重要な4つ目の権利:子どもと向き合い子どもが何に困っていたり不安だったりするか「参加し、意見を表明する権利」を、「子どもの社会権」を保障しなければ済まないのである。

 

 

国連・子どもの権利委員会:新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する声明

2020年4月8日

原文:英語/日本語訳:平野裕二

子どもの権利委員会は、COVID-19パンデミックが子どもたちに及ぼす重大な身体的、情緒的および身体的影響について警告するとともに、各国に対し、子どもたちの権利を保護するよう求める。

子どもの権利委員会は、COVID-19パンデミックの影響による世界中の子どもたち(とくに、脆弱な状況に置かれている子どもたち)の状況について懸念を表明する。とくに緊急事態および義務的ロックダウンを宣言した国々において、多くの子どもたちが身体的、情緒的および心理的に重大な影響を受けている。

10の人権条約機関が発した宣言に加えて、委員会はさらに、各国に対し、COVID-19パンデミックが突きつける公衆衛生上の脅威に対処するための措置をとるうえで子どもの権利を尊重するよう促すものである。とくに委員会は、各国に対し、以下の措置をとるよう求める。

1.今回のパンデミックが子どもの権利に及ぼす健康面、社会面、情緒面、経済面およびレクリエーション面の影響を考慮すること。当初は短期のものとして宣言されたとはいえ、各国の緊急事態宣言および(または)災害宣言がより長期間維持され、人権の享受に対するさらに長期間の制限につながる可能性があることは明らかになっている。委員会は、危機の状況にあっては、公衆衛生を保護するため、一部の人権の享受の制限につながる可能性がある措置が国際人権法において例外的に許容されていることを認識するものである。しかしながら、このような制限は必要な場合にのみ課され、比例性を有しており、かつ最小限のものに限られなければならない。加えて、COVID-19パンデミックのために財源の利用可能性に相当の悪影響が生じる可能性があることは認知しながらも、これらの困難は条約実施を阻害するものとみなされるべきではない。このような困難にもかかわらず、各国は、パンデミックへの対応(資源の配分の制約および資源の配分に関する決定を含む)が子どもの最善の利益の原則を反映したものになることを確保するべきである。

2.子どもたちが休息、余暇、レクリエーションおよび文化的・芸術的活動に対する権利を享受できるようにするための、オルタナティブかつ創造的な解決策を模索すること。このような解決策には、社会的距離を保つための要領およびその他の衛生基準を尊重する監督下での野外活動(少なくとも1日1回)、ならびに、テレビ、ラジオおよびオンラインにおける子どもにやさしい文化的・芸術的活動が含まれるべきである。

3.オンライン学習が、すでに存在する不平等を悪化させ、または生徒・教員間の相互交流に置き換わることがないようにすること。オンライン学習は、教室における学習に代わる創造的な手段ではあるが、テクノロジーもしくはインターネットへのアクセスが限られているもしくはまったくない子ども、または親による十分な支援が得られない子どもにとっては、課題を突きつけるものでもある。このような子どもたちが教員による指導および支援を享受できるようにするための、オルタナティブな解決策が利用可能とされるべきである。

4.緊急事態、災害またはロックダウンの期間中、子どもたちに栄養のある食事が提供されるようにするための即時的措置を起動させること。学校給食制度を通じてしか栄養のある食事を得られない子どもたちも多いためである。

5.子どもたちへの、保健ケア、水、衛生および出生登録を含む基礎的サービスの提供を維持すること。保健制度への圧力の高まりおよび資源の欠乏にもかかわらず、子どもたちは保健ケアへのアクセス(検査および将来開発される可能性があるワクチン、COVID-19関連の治療およびCOVID-19とは関係のない治療、精神保健サービスならびに既存疾患の治療へのアクセスを含む)を否定されるべきではない。子どもたちはまた、緊急事態、災害またはロックダウンの期間中、清潔な水および衛生設備にもアクセスできるべきである。出生登録サービスは停止されるべきではない。

6.子どもの保護のための中核的サービスを必須サービスに位置づけ、これらのサービス(必要な場合の家庭訪問を含む)が機能し続けかつ利用可能とされ続けることを確保するとともに、ロックダウン下で暮らしている子どもたちに対し、専門家による精神保健サービスを提供すること。子どもたちは、外出制限により、家庭におけるいっそうの身体的および心理的暴力にさらされ、または過密でありかつ最低限の居住適正条件を欠いた家庭で過ごすことを余儀なくされる可能性がある。障害および行動上の問題がある子どもたちおよびその家族は、密室においてさらなる困難に直面しかねない。各国は、電話およびオンラインによる通報・付託制度ならびにテレビ、ラジオおよびオンライン経路を通じた注意喚起・意識啓発活動を強化するべきである。COVID-19パンデミックの経済的および社会的影響を緩和するための戦略にも、子どもたち(とくに貧困下で暮らしている子どもおよび十分な住居にアクセスできていない子ども)を保護するための具体的措置を含めることが求められる。

7.パンデミックが引き起こす例外的状況によって脆弱性がいっそう高まる子どもたちを保護すること。これには、障害のある子ども、貧困下で暮らしている子ども、路上の状況にある子ども、移住者・庇護申請者・難民・国内避難民である子ども、マイノリティおよび先住民族の子ども、HIV/AIDSを含む基礎疾患がある子ども、自由を奪われている子どもまたは警察の留置場、刑事施設、閉鎖養護施設、移住者拘禁施設もしくはキャンプに収容されている子どもならびに施設で暮らしている子どもが含まれる。各国は、COVID-19パンデミックに対処するための措置において差別を受けないすべての子どもの権利を尊重するとともに、脆弱な状況に置かれている子どもたちを保護するための焦点化された措置をとるべきである。

8.あらゆる形態の拘禁下に置かれている子どもたちを可能な場合には常に解放するとともに、解放することのできない子どもたちに対し、家族との定期的接触を維持するための手段を提供すること。多くの国は、施設で暮らしている子どもまたは自由を奪われている子ども(警察施設、刑事施設、閉鎖施設、移住者拘禁施設もしくはキャンプに収容されている子どもを含む)との面会および接触の機会を制限する措置をとっている。これらの制限は短期的には必要な措置とみなされうるものの、長期に及べば子どもたちに著しい悪影響をもたらすことになろう。子どもたちは常に、家族との定期的接触を、直接ではないにせよ電子的通信または電話を通じて維持することを認められるべきである。緊急事態、災害宣言または国の命令による外出制限の期間が延長される場合、このような面会を禁止する措置の再評価を考慮することが求められる。移住の状況下にある子どもたちは拘禁されるべきではなく、また親がいっしょにいる場合には親から引き離されるべきでもない。

9.COVID-19に関連する国の指導および指示に違反したことを理由とする子どもの逮捕または拘禁を行なわないようにするとともに、逮捕または拘禁されたいかなる子どもも直ちに家族のもとに帰されるようにすること。

10.COVID-19および感染予防法に関する正確な情報を、子どもにやさしく、かつすべての子ども(障害のある子ども、移住者である子どもおよびインターネットへのアクセスが限られている子どもを含む)にとってアクセス可能な言語および形式で普及すること。

11.今回のパンデミックに関する意思決定プロセスにおいて子どもたちの意見が聴かれかつ考慮される機会を提供すること。子どもたちは、現在起きていることを理解し、かつパンデミックへの対応の際に行なわれる決定に参加していると感じることができるべきである。

以上

 

 

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