生活者の視点で産業廃棄物を考える

岩手・青森県境の不法投棄問題の調査から

東京・生活者ネットワーク
都議会議員・大河原雅子

事業者責任と広域処理が前提となっている産業廃棄物は、リサイクルや適正処理を求め、全国を移動します。その処理に安いコストを求めた結果、時として不法投棄などの脱法行為・犯罪に陥りがちです。都市の廃棄物は一方的に地方に流入しており、東京で排出される産業廃棄物の8割は他県で処理されています。生活者ネットワークは、青森・岩手県境にある国内最大の産業廃棄物不当投棄事件の現場を5月に視察しました。都市に暮らす生活者の立場から、不法投棄を未然に防ぐ産廃政策を検討し、「産業廃棄物対策と新エネルギー政策」の提案を進めます。

不法投棄量は豊島事件の2倍!

 現地視察では、岩手県庁でのヒアリングに続き、青森県の担当者の案内で現場を回り、さらに、全量撤去の声を挙げて県や国を動かした「田子の声100人委員会」のメンバーとも懇談の場をもちました。
県境の産廃不法投棄現場には、推定約82万?・香川県豊島事件の約2倍が不法投棄され、特別管理産業廃棄物の判定基準を超えるものも約2万?になることが判明しています。
不法投棄を行った業者は、許可免許を持ち、小さな処分場を持つことで不法投棄をカムフラージュし、組織的に不法投棄を行っていました。
廃棄物の全量撤去と原状回復には、10年以上の年月と660億円の費用がかかるといわれ、不法投棄をした処理業者2社は倒産し、許可を出した県職員は責任を問われました。許可のない業者に委託した都内の排出事業者6社にも撤去命令が出されましたが、首都圏だけで約7000ある排出事業者のほとんどは、責任を問われていません。都内の病院からの危険物や、有名メーカーの廃棄物などが混入されていることも明らかになり、排出事業者を多く抱える東京の責任が問われています。

なによりも全量撤去と原状回復を!

都会から運び込まれた得体の知れないごみによって、重大な環境破壊を実感した住民たちによる「田子の声100人委員会」は有権者の3分の1の署名を集めて青森県に全量撤去を求め、「二戸・自然と環境を守る会」「カシオペア地域環境NPO研究会」などの市民の活動も活発化しました。「将来世代に負の遺産を残さない」という住民の強い意思が、対応の異なる自治体の方向性を揃え、国の迅速な対応を引きだしました。
国は、廃棄物処理法を改正し、国や自治体の立ち入り調査権の拡充と罰則強化を行い、10年の時限立法で特定廃棄物の支障除去特別措置法を制定しました。しかし、拡大生産者責任や有効な未然防止策は盛り込まれず、「特別措置法ができたことで、県境の産廃問題があたかも解決したかのような空気ができてしまうことを恐れる」という住民の危惧の声もあり、国の対応に困惑する様子もうかがえました。

可能な限りの都内処理と周辺連携を

今年4月に発表された環境省の調査報告では、全国で不法投棄された産業廃棄物のうち、未処理量は1916万トン、撤去・処理費用は推定約1兆円とされています。全国一の千葉県は不法投棄878件、未処理量380万トンと報告されていますが、かつて東京から排出されたものが多いと考えられます。  
不法投棄された産廃の撤去はもちろん事業者の責任ですが、倒産などで責任追及は困難となり、速やかな対応には自治体の関与と費用分担が欠かせません。岩手・青森・秋田の北東北三県は、共同で産廃税や環境保全協力金を盛り込んだ産廃関連3条例をつくり自県(圏)内処理の原則を打ち出しており、これは全国的な流れです。
東京から排出される産廃が各地で締め出される現実は、不法投棄を招く原因にもなりかねず、都内処理の向上が欠かせません。地域のなかで、産廃を新たな原料として利用するゼロエミッションの追求が必要です。新たな産廃への認識を市民も獲得すべきではないでしょうか。事業者の許認可や指導・監視だけでなく、産廃業者を優良事業者へと育成することも東京都の重要な役割です。都内処理をすすめ、足りない部分は連携して圏内処理をしていくことが課題です。
都議会では、この視察をもとに産業廃棄物の排出事業者責任の徹底を提案しました。知事は、「適正処理の報告を義務づけるなど法令以上の取り組みを求めていくこと、さらに、環境への配慮や情報公開などに積極的に取り組む処理業者が、第三者機関により客観的に評価されるしくみについても検討していく」との前向きな姿勢を示しました。この秋にも制度化される予定です。

生活者通信№155より
詳しい内容は生活者通信でご覧いただけます。

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