中島岳志さんに聞く 「リベラル保守という可能性」――「熟議」と「闘技」のラディカルデモクラシーを起動せよ!!

東京・生活者ネットワークは1月30日、西新宿で「2020年新春の集い」を開催した。2部形式による集いには、ネット内外から約800人が参集。議会、自治体等関係各位のほか、NPO/市民活動団体の参加も多数いただくなか、今年の活動を展望するとともに連携をさらに深めあう場となった。第1部「リベラル保守という可能性」(講演:中島岳志東京工業大学教授)、第2部「市民活動団体アピール」から報告する。

 

――「左派:リベラル」vs「右派:保守」では表しきれない政治のあり方を、「価値」と「リスク」のマトリクスでとらえ直す!

 

2020年が明けた。すでに通常国会が開会するも、なんとも荒涼たる政治の光景が続いている。この日、中島岳志さんは、まず政治のあり方をマトリクスで示した。

「リスク」を巡る軸を縦軸に、「セーフティネット強化(リスクの社会化)」vs「自己責任(リスクの個人化)」を天地に記す。横軸は「価値」をめぐる軸で、「リベラル」vs「パターナル」を左右に置く。あらわれたのは、これまでの、「左派:リベラル・革新」vs「右派:保守」といった特定のテーマを前提におく対立軸ではない、4つの象限を持つ「価値」と「リスク」のマトリクスだ。

中島さんは、今、権力の中心にある自民党政治を読み解くことから話を起した。過去、自民党は第Ⅰ象限(右上)から始まった。日本列島改造論を提唱し登場した田中角栄は、公共投資や福祉政策を掲げ再配分に力をいれた。経済成長にともない都市化が進むと、自民党は第Ⅱ象限(左上)へ移行。功罪取り混ぜて大平、宮沢などが登場する。その後、橋本、小泉によって第Ⅲ象限(左下)に。構造改革、聖域なき規制緩和が進む。そして安倍政権にいたると一気に第Ⅳ象限(右下)へ。バブル崩壊、金融危機を背景にリスクは個人に引き受けさせ、歴史修正主義など価値の押し付けと介入が顕在化。経済指標全体で見るとアベノミクスと異次元緩和で、日本は現在「小さすぎる政府」、すなわち自己責任論が強い国となっており、この傾向は当面とまらない。

 

 

――リベラル保守という可能性|「大切なものを抱きしめる」のではなく、「大切なものを守る」ために変わる!

 

では、望ましい政治のあり方はどれか。それは第Ⅱ象限で、これを担うのが「リベラル保守」だ、と中島さん。ともすれば対極の概念として語られがちな「リベラル」と「保守」だが、そうではないのだろうか?

これを了解するためには、歴史に耐えうるのものさしで「リベラル」と「保守」を再認識することが必要で、16世紀ヨーロッパの宗教改革期に遡らなければならない。カトリックとプロテスタントの、価値観をめぐる対立が30年戦争に発展、血で血を洗う戦争の教訓から「リベラル」(寛容と自由)という概念が生まれ、初の国際法=ウェストファリア条約=に結晶した。では、「保守」とは何か。保守とは、政治思想家エドモンド・バークが「保守するために改革せよ!」の言葉とともに提唱した思想潮流に発する。

したがって「リベラル保守」とは、寛容と自由を基盤に置き、かつ「大切なものを抱きしめる」のではなく「大切なものを守るために変わる(※)」政治思想であって、改革への可能性を掲げ、自らも変わることを恐れない立場、政治のマトリクスで図示した第Ⅱ象限なのだ。

※私たちの現在は、膨大な過去の蓄積・知的財産の上に成立している。「改革」とは、過去から相続した歴史的財産に対する永遠の微調整

ところが、かつて「寛容な改革の精神をもつ保守」を打ち出した希望の党は、自身は第Ⅳ象限に位置する小池代表(当時)(旧民進党のリベラル派や左派排除発言)と組んで失速した。対して立憲民主党を立ち上げた枝野代表は、自らを「リベラルな保守」と明確に位置づけ、結果、希望の党の位置(第Ⅱ象限)を奪い急浮上した。しかし、「枝野立て!」に続く新たな物語を紡ぐことができず、埋もれてしまっていることは残念だ。

 

――今、第Ⅱ象限に必要なこと|「熟議」と「闘技」のラディカルデモクラシーを起動せよ!!

 

今、第Ⅱ象限が力を発揮するために必要なことは何か? 私たちは何を選択し行動すべきか? それは「熟議」と「闘技」のラディカルデモクラシーを起動させることだ、と中島さんは結論する。

日本の、若者に限らない多くの人々の政治的無関心、低投票率が止まらない。これは、新自由主義=市場化政策=によって生まれた自由競争により、市場が決定権をもつようになったから。日々の暮らしや生活の質を決定づける政治領域が極端に縮小されたことと対をなす。しかし実際には、新自由主義による競争と自己決定、続く自己責任を強調する社会は、国、地域、年齢層を分断し、つながり支えあうセーフティネットを蝕んでいる。

では、第Ⅱ象限=リベラル保守=が勝つための要素である「浮動票の獲得」と「投票率を上げる」ために、私たちは何を選択すべきか。だからこそ街に出る! 暮らしの現場、生活を営むために人々が行きかう現場への直接的コミットが必要。「熟議」デモクラシーを引っ提げて、街に、地域に出向いて働きかける。境界線を明確に引いて情動を喚起する。すなわち「熟議」と「闘技」のラディカルデモクラシーを真摯に実践することを求めたい。

ところで、なぜ山本太郎は有権者の心をつかんだのか、考えてみよう。「消費税廃止」という積極的でラディカルな争点を提示した山本は、預貯金ゼロの、有権者の3割の層に向きあった。その声を直に聞き、その声を身体に取り込み、生活の現場をステージに対話する。すなわち闘技デモクラシーを街々で展開した。ここに注目したい。

政治に期待しない、できない、投票に行かない層がもはや5割を超えている。ここに働きかける。正義を主張するのではなく5割の生活者の声を、意見を聞くことから始める。自分は間違っているかも、という理知を前提に考え、覚悟をもって政治に臨む。真に理智的な人間は、理知の限界を理智的に把握する。私たちは、「人間(および人間社会)の完成不可能性」を承認しつつ、謙虚さをもってリベラル保守を貫こう。セーフティネットが作動する人間社会を構築していかねばならないからだ。

講演を結ぶにあたって中島さんは、ローカルから第Ⅱ象限を死守してきた生活者ネットワークにはがんばってほしい。ネットのルール運用もふくめ、自ら変わることへの柔軟さを求めたい、と結んだ。

「今、第Ⅱ象限に必要なこと」――それは生活者ネットワークへの要請でもある。生活者ネットワークの持続可能性は、目の前の人の声を聞く力、生活者に届く言葉を発信していく力量にあることを肝に銘じ、改革と政策転換を政治と生活者の結節点である地域から達成に向けよう。

 

 

第2部|交流会

――議会/自治体関係各位メッセージに加え、NPO/市民活動団体によるアピールタイムが。意義深い交流と連携を深める場となりました。ありがとうございました!

 

  • 沖縄への偏見をあおる放送をゆるさない 市民有志

東京MXテレビ放送の「ニュース女子」が沖縄の米軍基地建設反対運動を誹謗中傷したことに対し、MXに訂正と謝罪を求めてきました。MXは放送を打ち切り、お詫びの見解も発表。現在は「番組は真実」と開き直り「ニュース女子」制作をやめないDHCの不買、放送継続局へのハガキアクション「#さよならDHC デマやヘイトにNO」を展開中です。

 

  • NPO法人フェアスタートサポート

児童養護施設や自立援助ホーム及びシェルターなどの施設に入所し社会的養護の下で生活を営んでいる子どもたちへ、将来の自立へ向けた支援を行い、すべての子どもたちが就業に関して平等で公平な機会を与えられる社会の創出に寄与することを目的に活動しています。

 

  • 羽田問題解決プロジェクト

羽田新ルート下全域の羽田空港機能強化問題に対する関連市民団体や個人に呼び掛けた2019年7月19日の「都心低空飛行問題シンポジウム」開催をきっかけに実行委員会として集い、その後8月8日の国交省による強引な新ルート決定発表を受けて同日国交省記者クラブで容認できない旨の会見を行い、当日より「羽田問題解決プロジェクト」と改名して今日に至っています。 各地域それぞれの闊達な市民運動を最大限尊重しながら、都心低空飛行問題運動のポータル/接着剤として、また共同行動が必要な時のけん引役を自任し、影響地域の市民や議会他、それぞれの立場の皆さんの多くが納得するかたちで新ルート問題が解決できることをめざし、「都心低空飛行は無謀である」という一点でつながっているプロジェクト集団。現在、品川区では「新飛行ルートの賛否を問う区民投票」の実施を目的に条例制定を求める直接請求運動が、渋谷の空を守る会が中心となり、新ルート直下の住民が原告となって羽田低空飛行問題を問う「行政訴訟」の、それぞれの活動が始動している。

 

  • 羽田問題訴訟の会

渋谷区の住民グループ(渋谷区の空を守る会)は現在、国土交通省を相手取り新飛行ルート導入の決定取り消しを求める行政訴訟を近々に起こすべく準備段階にあります。人口密集地・東京都心を低空で航行する新ルートの無謀さが明らかになるにつれ、反対の声は日々高まっています。「羽田問題訴訟の会」は、住民自治の重要さを行動規範に活動しています。

 

  • 世界遺産「サンティアゴ巡礼道」プロジェクト

桜美林学園キリスト教センターがサポートする、世界遺産「サンティアゴ巡礼道 プロジェクト」(プロデュース:桜美林大学特任教授でフォトジャーナリストの桃井和馬さん)は、キリスト教の聖地であるスペイン、ガリシア州のサンティアゴ・デ・ コンポステーラへの巡礼路(約800㎞:ピレネー山脈を経由しスペイン北部を踏破)を歩く旅に学生らがチャレンジするプロジェクトです。歩くことで自らと向き合った経験や、自身の旅の記録を発信しています。

 

  • FFFT(フライデーズ・フォー・フュ-チャー東京)

私たちが求めるのは「地球と調和して生きること」と、「気候正義」です。2019年3月15日、「 Fridays for Future」運動が呼びかけた世界規模でのストライキに、東京では若者を中心に125名が参加しました。昨年末には、台風など大規模災害を引き起こす気候変動への関心が高まる中、「Fridays For Future Tokyo」ムーブメントに参加しているメンバーが中心となって、東京都が「気候非常事態宣言」を出すよう求める請願運動を展開。請願は(紹介議員:都議会生活者ネット山内れい子都議)、環境政策委員会で審査されたものの継続審査とされ採択には至らず。残念な結果でしたが、後日、都知事が、新たに「気候危機行動宣言」策定を発表。気候危機への認識を高めつつ行動するべく示唆したことは成果。地球温暖化をはじめとする気候変動に警鐘を鳴らし、政府や自治体に対策を求め元気に行動していきます。

 

  • 香害ゼロプロジェクト

最近、香りが持続する、香りの強い商品が増えてきています。しかし「よい香り」とされる商品で、「化学物質過敏症」という病気を発症してしまう人もおり、現在は13人に1人が化学物質過敏症の徴候があると言われています。この会(大田区社会教育団体)は、香害などの環境問題を考え、安全で健康的な生活を送るための啓発活動として講演会や勉強会を開催。また、子育て世代に対して、安全な生活をおくるための支援活動を行っています。

 

  • ゲノム編集食品NO!――遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン

すべてのゲノム編集作物の栽培を規制し、食品の安全審査を行い、表示することを求める署名提出緊急院内集会を終えて、ネットの新春の集いに駆けつけられた、科学ジャーナリストの天笠啓祐さん(遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表)から報告をいただく。

ゲノム編集技術を利用してつくられた食品が、安全性審査もされないまま、表示もないまま、私たちの食卓にのぼる可能性が高まっています。日本消費者連盟と遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンは、「すべてのゲノム編集作物の栽培を規制し、食品の安全審査を行い、表示することを求める」署名提出緊急院内集会を他団体と開催。新しい遺伝子操作技術であるゲノム編集については、海外の研究者が問題点や危険性を指摘しており、安全性が担保されているとは到底、考えられません。このような技術でつくられた食品を受け入れることはできないと、声をあげていくことが重要です。今回の院内集会では、全国から集まった署名を提出し、厚労省及び関係省庁にゲノム編集作物・食品の厳しい規制を求めました。「ゲノム編集食品なんて食べたくない、いらない」の声をあげましょう。

 

新春の集いには、都内34の区・市にある地域の生活者ネットワークから、所属する42人の女性議員が参集した。

 

 

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