安全より経済優先? 羽田空港増便・飛行ルート変更計画は撤回を!

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安全より経済優先? 密集市街地を飛行機が超低空で飛ぶ?!

 

品川区を低空で飛行機が飛ぶ国交省計画の白紙撤回を求めてデモ行進する区内の住民、超党派の自治体議員ら。生活者ネット区議の吉田ゆみこもマイクを握り、広く市民に問題提起した。8月20日

品川区を低空で飛行機が飛ぶ国交省計画の白紙撤回を求めてデモ行進する区内の住民、超党派の自治体議員ら。生活者ネット区議の吉田ゆみこもマイクを握り、広く市民に問題提起した。8月20日

東京都心など密集市街地上空を飛行機が飛ぶ「羽田空港増便・飛行ルート変更計画(案)」。国際線の便数を増やすためとし、昨秋来にわかに浮上した新ルート案に、都内各地の説明会(国土交通省主催:15年秋から今春)で反対・懸念の声が続出。計画開示以来、関係各区・東京都への羽田空港問題見直しに係る請願・陳情活動、市民集会などが活発化、危険な飛行ルート案の撤回、増便計画の見直しを求める動きが広がりを見せている。

生活者ネットワークでは23区部の地域ネットを中心に「羽田問題プロジェクト」を立ち上げ、それぞれの自治体で地域住民への情報提供とともに、計画の撤回を求めて区政・都政・国土交通省への働きかけを強めてきた。

 

羽田増便・新ルート計画 時代錯誤の「開発独裁」に異議!

 

これまで羽田空港の離着陸は騒音を抑え、一度事故が起れば甚大な被害をもたらす落下物事故などを防ぐために、都心上空を回避するルート、すなわち「航空機は海から入って海へ出る」飛行ルートが使われてきた。

しかし、2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機に先々、訪日外国人年間6000万人を目標に掲げる(現状は1300万人に過ぎず論外の数字である)日本政府および国交省は、羽田離着陸機の増便が不可欠であるとして新ルートへの変更を計画。新ルート案により、3500億円の経済効果が見込まれるとし、経済最優先、安全は二の次、三の次、足下に暮らす住民の危険を顧みない計画を進めようとしている。

 

練馬・中野・新宿・渋谷・港・品川・大田の各区、和光市・朝霞市・志木市上空を飛ぶ南風時飛行ルート案

 

南風時新ルート案概念図(国交省HPから)。危険と隣り合わせの「井桁」型に滑走路が交差する羽田空港。羽田国際便増便・飛行ルート変更計画では、年間最大3.9万回(現行の1.7倍)の発着増加を狙うという

南風時新ルート案概念図(国交省HPから)。危険と隣り合わせの「井桁」型に滑走路が交差する羽田空港。羽田国際便増便・飛行ルート変更計画では、年間最大3.9万回(現行の1.7倍)の発着増加を狙うという

これまでに示された国交省の計画では、「1時間あたりの発着回数を現行の80回から90回まで増やす」ことが前提とされ、そのために【南風時飛行ルート案】を新たに設定。年間のうち南風が吹いている日の午後3時~午後7時に限り、東京23区を北西部から南東方向に縦断する。埼玉、練馬方面から進入し中野、新宿上空を飛行、渋谷、港、目黒区では東京スカイツリー(634メートル)より低く飛ぶ。

JR目黒駅(品川区・目黒区)周辺で着陸態勢に入った航空機がJR大井町駅(品川区)を通過時には、東京タワー(333メートル)よりさらに低い高度300メートルで降下体制に入り、そのまま海浜部に抜けて羽田空港A滑走路、C滑走路に着陸する。

 

増便優先!? 江東・江戸川・墨田・葛飾・荒川・足立・埼玉上空を飛ぶ北風時飛行ルート案

 

【北風時飛行ルート案】も「1時間あたりの発着回数を現行の80回から90回まで増やす」ことを前提としており、出発需要のピークを踏まえた午前6時〜午前10 時30分の間、および国際線の需要が集中する午後3時~午後7時に限り、増便計画にそって航空機が当該の生活圏上空を飛来するというものだ。

 

航空機事故は、離陸後3分、着陸前8分に集中している

 

羽田空港増便問題を考える会が主催した、航空評論家の秀島一生さんを迎えての「羽田空港問題シンポジウム」。関係各区からの報告で発言する、品川・生活者ネット区議の吉田ゆみこ。大田区立消費者生活センター。昨年10月31日

羽田空港増便問題を考える会が主催した、航空評論家の秀島一生さんを迎えての「羽田空港問題シンポジウム」。関係各区からの報告で発言する、品川・生活者ネット区議の吉田ゆみこ。大田区立消費者生活センター。昨年10月31日

この事態に昨年10月31日、新ルート当該区の市民、環境団体や超党派の自治体議員らが立ち上がり「羽田空港問題シンポジウム」開催にこぎつけ、以来、当該住民を中心に、各地で羽田空港増便問題を考える会が発足。毎回のメインゲストに航空評論家で拓殖大学客員教授も務める秀島一生さんを迎えて、‣羽田空港機能強化というまやかしから、‣日本の航空政策に横たわる根本問題へと掘り下げる学びの場を共有。当該住民らを中心に、危険な新飛行ルート案の撤回、増便計画の見直しを求めて活動を開始。各地の国交省説明会に係る情報の共有、各自治体議会への働きかけや意見交換、問題を多くの市民に知らせるための集会やデモなどへと活動は広がりを見せている。

 

専門家も安全性に警鐘―騒音・落下物・大気汚染・墜落……

 

練馬・生活者ネットワークが事務局を担い開催した国政フォーラム「航空評論家に聞く―羽田空港機能強化の現実」(主催:生活者ネット23区エリア会議)。航空評論家の秀島一生さんの問題提起を改めて確認した。1月21日

練馬・生活者ネットワークが事務局を担い開催した国政フォーラム「航空評論家に聞く―羽田空港機能強化の現実」(主催:生活者ネット23区エリア会議)。航空評論家の秀島一生さんの問題提起を改めて確認した。1月21日

航空評論家の秀島一生さんは30年にわたっての国際線チーフパーサーの経験から、新ルート案について様々な危険・危惧を指摘する。

  • まず、世界でも類を見ない、人口密集地を広範かつ低空で飛行機が飛ぶことの危険。飛行機事故は離陸後3分、着陸前8分以内に集中して発生しており、新ルート案では、事故が起きれば逃げ場がない。
  • 各国・各空港周辺には、安全確保の観点から、当たり前に緩衝帯が設けられている。今回のような市街地を低空で飛行機が飛ぶこと自体、外国ではまず例がない(狂気の沙汰である)。
  • 成田空港周辺では毎年、複数件報告がある落下物事故。都心上空を着陸便が飛ぶ新ルート案では危険性はいや増すことになる。落下物事故は着陸前に車輪を出す「脚下げ」時に多発するが、新ルート案では住宅地の上空で脚下げせざるを得ない。現在は、氷塊・部品の一部、オイルなど落下物による事故を避けるために、本来は木更津辺りが車輪を下すタイミングのところを国交省の「勧告」に従って、いったん海上に出て脚下げしている。つまり、国交省も着陸時落下物事故の危険性は十二分に承知しているのだ。
  • 騒音問題も深刻だ。飛行機が約300メートルで品川区を通過する時の騒音値は約80デシベル(国交省推定値)。窓を開けて走行中の地下鉄の車内と同程度の騒音だ。また、南風時飛行ルートは2本予定されており、両方を合わせると1時間あたり44便の飛行機が4時間たて続けに品川区内に集結・低空で降下体制に入ることになる。その間、周辺住民は絶え間なく騒音にさらされることになる。直下には。保育所、小中高校、大学など教育施設、病院や介護施設などが密集する街街の風景を考えれば、時代錯誤の「開発独裁」政策は許されるものではない。
  • さらには大気汚染問題、規制緩和による格安航空便の就航と安全対策への不安、増便計画に伴う管制官への労働負荷問題など、安全な住民生活を脅かす問題は山積している。
  • そもそも羽田空港はABCDの各滑走路が「井桁」型に配置・交差する危険と隣り合わせの空港であり、安全確保と増便計画への矛盾は被うべくもない。また、B滑走路では大田区の街区に向かっていきなり離陸、川崎の石油コンビナート上空を経て23区上空を飛ぶ航路も計画されている一方、2010年にできたばかりのD滑走路は、全く使われないなど計画への疑念・疑問は数知れない。

ざっと書き出してもこの通り。危険・危惧・問題は多岐にわたるが、秀島さんが諸外国の主要空港と引き比べて説く、増便計画への問題提起は、なるほど的を射ている。

都心上空を航路とするルート変更は論外だが、増便計画を住民にはかりたいのであれば、羽田に一極集中するのではなく、成田空港や茨城空港への分散が必須、リニア新幹線の愚を進める前に、そもそも国交省がコレまで明記してきたところの、成田・茨城と都心を結ぶ高速公共鉄道の整備など交通アクセスの充実こそが示されてしかるべき、というわけだ。3・11大震災がもたらした仙台空港の壊滅的被害を見るまでもなく、災害時海上空港の弱点は自明、首都圏の空港機能を羽田に一極集中させることこそに無理がある、と明快だ。

さらには、前東京都知事に国交省交渉の構えが皆無であることに触れ、都民生活の安全をはかるべくある知事の態度を手厳しく指摘、今後、小池新知事の当該問題への態度表明も注目せねばならない。

 

羽田だけではない!危険きわまる日本の航空政策

 

戦後日本の航空行政が安全を基軸に確たる政策を打ち出せないまま、観光政策とのマッチングばかりが優先されてきたこと、安全より経済優先の規制緩和が次々行われてきたことに、じつは問題の本質がある。加えて、首都東京の空を米国が制空する「横田空域」が依然存在することが大きく問題の本質をゆがめていることも忘れてはならないだろう。

今回の国交省計画は、主権国家日本の航空政策全体の問題でもあること、その目的が安全より経済の国際競争力確保にあることは、国交省の表層をなぞるに過ぎない説明とも言い難い、「釈明」らも明らかだ。日本の航空政策を抜本的に見直すためにも、羽田空港増便・飛行ルート変更計画案は一旦白紙に戻すべきである。

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