山口二郎さんと西崎光子が「2013都政の課題」について話し合いました

女性のちから、市民の知恵を都議会に!

持続可能な活気に満ちた少子高齢都市“東京”をつくる!

対談する山口二郎さんと西崎光子

国政の前哨戦と位置づけられ、ともすれば自治体としての政治課題が埋没しがちな都議選。そうした中、東京・生活者ネットワークは設立以来36年間、暮らし発・地域に根差した政策を掲げ、めざすべき新しい社会のビジョンを提示してきました。東日本大震災、福島第一原発事故から2年。3・11後初めての東京都議会議員選挙を前に、被災地の再生支援と持続可能な生活都市東京を実現にむけるための解決すべき都政の課題について、山口二郎さん(北海道大学教授)と都議の西崎光子が話し合いました。

自民政権復帰―現実逃避、事なかれ主義が蔓延している

山口◆東日本大震災と福島原発事故以降、いわば文明論的に行き詰まった状況の中、「怖いものは見たくない」という現実逃避の感覚が広がっています。昨年12月の衆院選から4カ月、アベノミクスなるもので円安株高という二つの数字がもたらされ、それだけで、政治的選択に対する国民の関心そのものが消失してしまった。いわば思考停止の状態が続いたまま、都議選と参院選を迎えようとしています。

西崎◆地域を回ると、民主党への批判を口にする方も若干いらっしゃいますが、自民党政権をベタ褒めするような人も、実際にはごく少数です。一人ひとりの生活課題は積み残されたまま、それが現実ですから。ニュースで報道されているほど、安倍政権が高い支持を得ているわけでは決してないと思います。

山口二郎 やまぐち・じろう◆1958年生まれ。東京大学法学部卒業。北海道大学法学部教授。行政学・政治学。著書に『イギリスの政治 日本の政治』『政権交代とは何だったのか』ほか多数

山口◆株価が上がり、輸出産業を中心に企業の収益が回復したと言われていますが、10年前の小泉政権下での見せかけの好景気を繰り返しているに過ぎません。給料が上がるわけではないですし、社会の隅々までお金を回す方向とは正反対に政治が動いています。具体的な個々の課題を検証してみれば、すさまじい隠蔽と先送りの連続です。

西崎◆福島原発の事故も、収束とはほど遠い状況です。にもかかわらず、福島では原発の話をすること自体がタブー視されていると聞きます。事故被害者の現実を黙殺し、原発ゼロを望む国民の声にも耳をふさいで再稼働を目論む安倍政権の姿勢は、到底許されるものではありません。

山口◆国会事故調査委員会の報告書で提起された問題について、政府は真相解明を放棄していますし、そもそも使用済み燃料の問題や核燃料サイクルははじめから破綻している。にもかかわらず、壊れた機関車みたいに、ただ突っ走っている。もはや犯罪ですよ。ただ、去年の12月、大震災後初の国政選挙で、日本人は結果的に自民党政権を選択してしまった。それは民主党政権がだらしなかったことに起因していますが、「あれだけの事故が起こり、利権の構造や無責任の構図が露呈したのに、一体何を考えていたのか」と、後世の人たちに必ずや追及されることになるでしょうね。

都政の課題は山積している―ビジョンや政策が見えない猪瀬都政

西崎光子 にしざき・みつこ◆東京・生活者ネットワーク代表委員。都議会生活者ネットワーク・みらい幹事長

西崎◆猪瀬都政はまだスタートしたばかりですが、今は何でもオリンピック招致に結びつけ、9月の開催地決定にむけて一生懸命動いていることをアピールしています。IOC 評価委員が視察に来た際にはテニスをしてみせたりとパフォーマンスに余念がありません。

山口◆ 1964 年の東京オリンピック開催時は、大開発をして高度成長期以前の東京を全部壊したわけですよね。オリンピックをテコに公共投資をがんがんやって、それで景気をよくしよう、夢よもう一度という下心が見え見えですが、今の人口減少時代にそんな手法は通用しません。日本社会全体がもう、ある種衰退局面に入っている現実があるわけですから、地に足の着いた現実的な都市経営、都市の持続可能性をこそ考えなくてはならないのに、時代錯誤もはなはだしい。

西崎◆それこそが東京問題のはずですが、都政全般をどう舵取りしていくのか、猪瀬カラーと呼べるものは一向に見えてきません。東京メトロと都営地下鉄の一元化政策以外は、具体的なビジョンや政策を持っていないのではないかと思いますね。今年の東京都の一般会計予算は6兆2640 億円ですが、うち1兆円は福祉関連です。1兆円台に達したのは初めてで、この状況が続くことは必至ですし、財政を圧迫する側面は否めません。少子高齢化が進展する中で将来の労働人口をどうやって確保していくのかも深刻な課題で、その観点からも女性の就労をさらに推し進めていく必要がありますが、第一子の出産を機に約6割の女性が離職している。女性の年齢別労働人口比に表れる、いわゆる「M字カーブ」は依然として解消されていないですし、完全失業率のピークも20~30代の若者や女性に集中しているのが現状です。

山口◆女性の就労支援やワークライフバランスの重要性はバブル期のころから言われてきて、実際、労働時間も少しは減りましたが、経済が冷え込んで余裕がなくなると、また死ぬほど働く時代に戻ってしまいました。最低賃金の引き上げ、正規と非正規の賃金格差の是正などにより、非正規であっても安心して暮らせる社会にすることが急務で、「同一価値労働・同一賃金待遇」の実施にこそ向かうべきですが、現政権にはそういう発想が欠如しています。

西崎◆経済成長には自ずと限界がありますから、自分たちの足元にある地域から、働き方や生活スタイルを変えていくことが、今後は一層求められると思います。企業が都心に集中し、昼間は高齢者と子育て中の女性たちしか残っていない地域ではなく、もっと職住近接型の生活圏を確立することも重要ではないでしょうか。2030年には、65歳以上の高齢者人口は361万人と人口の26%を占め、ひとり暮らしや高齢のお年寄りのみ世帯が急増すると言われています。少子高齢・人口減少社会であればなおさら、高齢者の見守りや在宅生活を支援するコミュニティ発の活動、子育てを地域で支え働く女性や若年世代をサポートする活動もますます重要となるでしょう。ワーカーズ・コレクティブ、ソーシャルビジネスや社会的事業所など多様な共に働く場を地域につくっていく、そのための制度やしくみづくりが今、東京都に求められていると私たちは考えます。今回の都議選では、そういう、持続可能な東京の未来像をわかりやすく提示していきたいと思っています。

山口◆やはり生活者ネットの「生活」という言葉を、いま一度掘り下げなくてはいけないですよね。経済界やある種の学者は非常に単純なイメージで、生活イコール消費、消費は安ければいいと単純化し、だったらTPP で関税ゼロにして徹底的に規制緩和すればいいという結論を、平気で導き出すのですが、一方で安心・安全を強調するのですから、実に矛盾しています。

西崎◆築地市場でのBSE(いわゆる狂牛病)の全頭検査は私たちがずいぶん要望し、東京都もそれに応える形で実施し続けてきましたが、TPP への参加によって、緩和あるいは廃止されることが懸念されます。遺伝子組み換え作物も、生活者ネットが求め続けて、都内では栽培させないガイドラインが策定されていますが、今後果たしてどうなるのか。そもそも国産の食材を食べ続けることができるのかさえ危ぶまれている。市民の力で築き上げてきた食の安全・チェック体制が、今たいへんな危機に瀕していることは間違いありませんし、次代への責任を含めてここであきらめるわけにはいきません。同様に、消費者一辺倒では解決しない原発問題も、東京から「生活」者を起点にキチンと正否を問い、徹底的な節電と電力の地産地消をめざすことで解決にむけなければならない東京都民の最重要課題でなければならないと考えています。

お任せ民主主義から脱する―地域発・参加と自治のまちをつくる

西崎◆3・11を経て初の都議選が目前に迫っています。私たちは都議選政策のなかで、「原発ゼロ。子どもを放射能から守る」を第一に掲げていますが、選挙戦を通じて、なぜ原発というシステムに反対なのか、エネルギーや食の安全をどう確保するのか、きちんと論理立てて説明し、議論し、おおぜいの皆さんとともに新しい地平に立ちたいと思っています。3・11のずっと以前から、単に消費するだけではない生産地とつながってきた活動を糧に、持続可能な豊かな少子高齢都市東京を描き、示す。明確でわかりやすい、生活者のメッセージを提示していくことがとても重要だと考えています。

山口◆民主党政権がああいう形で崩壊した後、政治の中で理想を語ることがとても難しい時代になってしまいました。そうした政治状況であるからこそ、はっきりと正論を掲げ、ダメなものはダメと言う。闘う姿勢とそして希望を示していくことが求められている。市民、とくに現状に対して「何かおかしいな」と疑問を持っている無党派層に届く言葉を発して、都政の場にローカル・市民の発言権を確保する。さらに、ともに公正な社会を切り拓こうというあるべき政治風土を培っていかなければ。

西崎◆生活者ネットワークが36年にわたり唱え、実践してきたことが問われるわけで、今回の都議選は、まさに正念場だと思っています。

山口◆結局、政権交代すれば世の中が変わるという期待は幻想であり、それもある種の「お任せ民主主義」だったということでしょう。苦い教訓を得て、もう一度、自分たちでこつこつやっていくんだと。振り出しに戻った感がありますが、生活者ネットワークは、所帯は小さくても地域にちゃんとした運動が世代を超えて在り続けている。「生活」者のフィールドを背景に持つネットのような政治団体であれば、荒波に飲みこまれずに、この苦境を耐えていけるものと期待すること、大なるものがあります。勇気と元気を振り絞って、皆が覚醒するような結果を出してほしいし、頑張るしかないですよ。   〈了〉

 

 

 

都議選候補予定者、左から西崎光子(世田谷区)、星ひろ子(昭島市)、やない克子(練馬区)、小松久子(杉並区)、奈須りえ(大田区)、山内れい子(国分寺市・国立市)

 [収録:2013年4月16日都内新宿。まとめ:東京・生活者ネットワーク 月刊『生活者通信』編集部]

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