金子勝さんを迎えて―東京ネット国政フォーラムを開催

市民が政治を監視する 地域分散型ネットワーク社会の構築が求められている

 9月25日、東京・生活者ネットワーク第18期国政対策会議が主催する「国政フォーラム」が開催された。今期3回目となるフォーラムの、金子勝さん(慶應義塾大学教授)を講師に迎えてのテーマは「政権交代をどう捉えるか」。金子さんは3.11以降、『原発は不良債権である』を著すなど日本の原発問題の闇に切り込むなど積極的に発言され、先ごろは神野直彦さん(慶應義塾大学経済学部教授)と共著で『失われた30年 逆転への最後の提言』を上梓されている。

 歴史的にみれば2007年のアメリカの住宅バブル崩壊に端を発した世界金融危機は、1930年代の大恐慌に似て、要は、私たちは歴史的な転換点にいる。イラク戦争、そしてリーマンショックによって衰退していくアメリカに追随しているうちに、日本は成長するアジア諸国からも取り残された。1990年代後半からの不良債権処理に失敗し、大義の全くないイラク戦争に参加、小泉構造改革路線は格差や貧困をもたらすとともに、この国の産業の国際競争力を決定的に失墜させた。そして深刻な福島第一原発事故に帰結した。経済が縮小し、職がなく、人々が苛立っている――そういう時にナショナリズムやポピュリズムが勃興する。郵政民営化の小泉元首相や大阪都構想の橋本大阪市長のように、だれかを悪者にして叩くと拍手喝采を受けるのは「絶望の中の希望は破壊」だから。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が悲惨な被害をもたらしている今、これでも日本が変われないのであれば、この国は終焉に向かっていくしかない。

 政権交代は健全な民意の反映であったが、その政権交代も自公民大連立にとって代わり、何かを変えるのに、政党に投票すれば政策が実現することは、残念ながら望めない。民意を無視する政治に任せている限り展望はない。官邸前デモが、2カ月間であっても原発ゼロを実現する大きな力となったことは確たる事実である。政治の貧困を打破するためには、市民が本気で政治を監視するしかないということだ。一人ひとりの議員を監視し、一つ一つの政策判断をチェックする――選挙民を裏切ったら必ず落選させる、そういう行動を市民社会が巻き起さなければならない。
歴史的にみれば、危機の時こそ新たな制度やしくみが生まれている。政治状況はよくなっているとは決して言えない。だが、そうであるからこそ時代の変化をしっかり見据え、過度に悲観せず、大きな来るべき社会ビジョンを描く――そうしながら、市民が政治に係わっていくことが重要だろう。

 金子さんは怒りを込めて、原発・エネルギー政策や税と社会保障、TPP交渉参加表明などグローバリゼーション追随の政治の危機について語り、そして「福島を見捨てない」ことを強調したうえで、3.11を契機に、今こそ指向すべき新しい産業や社会のあり方を以下のように提言。キーワードは「地域分散型ネットワーク社会」。それらは、地域政党として生活者ネットワークが問うてきた政策提案と合致する。金子さんの提言に大きな勇気と裏付けを得るとともに、ネットの役割もまた明確となった。

提言■原発ゼロの電力改革―原子力予算を大胆に組み替える
 3・11原発事故で原子力安全・保安院や原子力安全委員会はメルトダウンやSPEEDI の情報を隠し、自分たちの都合で学校の校庭の使用基準を緩め、放射能に汚染された焼却灰や下水汚泥の埋め立て処理に至ってはその安全基準を膨大に引き上げた。国民の信頼は完全に失墜している。使用済み核燃料の最終処分もできないまま、動かない原発は収益を生まない一方で多額の借入金返済と維持管理費用がかかり「不良債権化」してしまうことは自明だ。解決には東京電力を一時、国有化したうえで経営者と貸し手責任を問い、給与や企業年金のリストラを行う。次に発電会社と送・配電会社に分け、その資産(株式)を売却。その資金を被災者の賠償や除染費用に充てる。不足部分は原子力予算の大胆な組み替えによって捻出。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を利用して、再生可能エネルギーへの転換を大胆に進める。

提言■エネルギーと食糧をできる限り地域に根差して自ら生産できるようにする
 大量生産・大量消費社会から「地域分散ネットワーク社会」をつくる方向へ転換。エネルギーの地産地消は地域再生の重要ポイントであり、IT技術を駆使して、各ユーザー間や地域間での電力の需要と供給をコントロールできるようにする。農業も地域分散型ネットワーク社会に合わせ自給率を高めることで、食の安心・安全の確保と6次産業化が可能となる。

提言■社会的セーフティネットを張りなおす
 現金給付に重点を置いた社会保障から、サービス給付に重心を置いた社会保障へシフトさせる。年金という現金給付だけで生活保障するのでなく、「地方自治体が提供するサービスと給付とのセットで生活を保障する」ことがポイントとなる。その財源は国の所得税の基礎税率部分を地方の住民税に移し替え、それに見合う補助金を削減する。

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