福島の子どもたちを放射能被曝から救え! 

生活者ネットワークは、子ども20ミリシーベルト基準の即刻撤回を要求します

東日本大震災から2カ月が経過しました。 しかし、 福島第一原発は依然、 危機的な状況にあり、 原子炉内では事故直後から核燃料が溶融、崩落するメルトダウンに至っていた事実が判明するなど、 原発事故は新たな局面を迎えています。 1〜4号機とも、たとえ爆発的事象は回避できたとしても、 核分裂生成物の封じ込めにさらなる困難が生じており、 今後大量の放射線や放射性物質を放出し続けることは避けられません。

子どもたちが危ない!
小・中学校で、放射線従事者許容量の基準を超える放射能を観測

こうした中、去る4月19日、文部科学省は「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における放射線量の目安」として、「20mSv/年」という空間線量基準を福島県教育委員会や関係機関に通知しました。 政府は、「国際放射線防護委員会(ICRP)が非常事態収束段階で適用すべきとした参考レベル 『1〜20mSv/年』 を暫定的な目安とした」 「安全と学業継続という社会的便益の両立を考えて判断した」 とし、さらに「年間20mSvを超えないように、毎時3.8μSv(20mSv/年に相当)以上の学校等施設においては、子どもの屋外活動を1日1時間に制限するための指針である」としています。

すでに国内外でその問題性が指摘されていますが【注1】、年間20mSv(3.8μSv/時相当)とは、労働基準法で18歳未満の子どもの作業を禁止している「放射線管理区域」の、さらに約6倍の数値であり、また、日本の原発労働者が白血病等を発症し労災認定を受けている線量に匹敵、ドイツの原発労働者に適用されている最大線量にも相当する眼を疑うような数値です。政府、 文科省が福島の子どもたちに強いているのは、このような厖大な被曝量なのであり、 子どもたちの 「生きる権利」「遊ぶ権利」 「学ぶ権利」 「休息する権利」 …それらを踏みにじる非人道的な決定と言わざるをえません。

県内の高レベルに汚染された子ども施設の実態は、福島県の住民や子どもを学校等に通わせている保護者らが立ち上げた「原発震災復興・福島会議」による小学校の放射能測定結果、および福島県が行った小・中学校の測定調査結果から明らかであり【注2】、さらに問題なのは、 20mSvは空間線量のみを考慮した「外部被曝」値であることで、大気を吸入する、 土埃を吸う、食物から放射能を体内に取り込むなどの「内部被曝」は一切考慮されておらず、また考慮する必要がないというのが、 政府、文科省の態度であることです。
 
危険区域での学びを政府、 文科省が子どもたちに強要することは、 子どもの生存権さえ顧みない犯罪的行為であり、 私たちは、 今回の基準変更通知を認めることはできません。生活者ネットワークは、以下のことを考慮し、直ちに実行するよう、政府、 文科省に強く要求します。

■福島の子どもたちに大量の放射線被曝を強いる 「年間20mSv基準」 を速やかに撤回すること。
■科学的根拠のある、 かつ一般公衆よりさらに低い子ども基準を示し、 それを超える施設や場所の速やかな除染を行うこと。
■放射線拡散予想図から必要と思われる適切な場所でのモニタリングを拡大実施し、 結果を逐次公開すること。
■緊急事態であることに鑑み、 被曝線量の高い地域、 子ども施設・学校等においては、可能な限り地域コミュニティごとの緊急避難体制を準備する。 やむを得ず地域や親元を離れなければならなくなった子どもの受け入れ先の確保とその移動等支援、福祉的・心理的ケアを用意すること。
■子どもたちがどこで暮らしても、 適切な遊び、 学びや休息の権利が保障されるよう支援体制を整備すること。

mSv:ミリシーベルト μSv:マイクロシーベルト eV:エレクトロンボルト

【注1】そもそも「被曝」とは何か。 京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんは、 「生命情報を保持するDNA。これらを構成している原子が互いに引き付けあっているエネルギーは5〜7eV(エレクトロンボルト)。一方、 放射線が放つエネルギーは数百keV〜数MeVと厖大で、 数十万倍から数百万倍も高く、 放射線に被曝した組織は生きるために必要な情報をずたずたに引き裂かれてしまうことになる。 原子力推進派は、 被曝量が少なければ安全であるかのようにいうが、 低レベル放射線の生物影響を長期にわたって調べてきた米国科学アカデミーの委員会は、 その7番目の報告で、『被曝のリスクは低線量に至るまで直線的に存在し続け、しきい値はない』 と公表している。 成人に比べて、 細胞分裂の活発な乳幼児や子どもの放射線感受性が高いことは疫学的事実であり、 同じ量の放射線を浴びるのであれば、 子どもはおとなに比べて4倍の危険を負うことになる」。 子ども20mSv基準については、「許せない値。戦時中のような、疎開の必要性を真剣に考えている」 という。
 元放射線医学総合研究所主任研究官、医学博士(現高木学校)の崎山比早子さんは、「子どもや乳児は、放射線感受性が高いだけでなく、 これから生きる年数(寿命)が長く、 放射能を受け続ける結果の積算量が増えていく。 その意味からも、 子どもの被曝は何としても避けるべき」 と強調する。

【注2】福島県の住民や子どもを学校等に通わせている保護者らが立ち上げた「原発震災復興・福島会議(以下、福島会議)」は、文科省通知にさかのぼる3月29〜30日、 福島市および川俣町にある小学校を対象校に市民による放射能測定サンプル調査を行った。校庭地表面(10〜20cm)等にガイガーカウンターをセットして行った調査からは、 すべての対象校が高濃度に汚染されているだけでなく、 グランド (26.11μSv/時)や芝生(25.60μSv/時)、 側溝 (108.80μSv/時)などで放射能カウント値が高い、 いわゆるホットスポットがあることがわかった。 福島会議は、 この結果をもって福島県、 教育長に対して入学式の延期、 および詳細調査を要請。 新学期は予定通り実施されてしまったが、 県当局は4月5〜7日に県内1428カ所で実施する測定調査に乗り出した。
福島会議世話人の中手聖一さんは都内で行われた市民集会(4月30日)で、「県当局による調査は1チームが1日23カ所を巡回するといったずさんな仕方。 福島会議による実測値を下回る傾向だったが、 それでもその結果は驚くべきもので、 調査対象の学校の実に75.9%が国が定めてきた『放射線管理区域(1.3mSv/3カ月)』に相当する放射線量が計測され、 25.4%がさらに酷い『放射線業務従事者の許容値(100mSv/5年)』を越えた放射能レベルだった」 と報告、何としてもこの数値を撤回させ、子どもたちを被曝から救いたいと決意を述べた。(写真)
<文責 東京・生活者ネットワーク広報室 加藤千鶴子>

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