「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)案」にパブリックコメントを届けよう! 原発温存・再生可能エネルギーの成長抑制に抗議の声を!

長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)案」にパブリックコメントを届けよう! 「原発ゼロ」を導いた2012年の国民的議論を無視! 原発温存・再生可能エネルギーの成長抑制に抗議の声を! 

201563日/東京・生活者ネットワーク 

経済産業省は6月2日(~71日)、「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)案」へのパブリックコメントを開始した。

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620215004&Mode=0 

地域からのエネルギーシフトをめざして、市民による再生可能エネルギーを増やす活動が、全国各地で取り組まれている。NPO法人世田谷みんなのエネルギーが、2013年6月に建設したソーラー市民協同発電所(世田谷区北沢)。写真提供:NPO法人世田谷みんなのエネルギー

2030年度時点の電力需要をどのような電源を組み合わせて賄うかを決めるエネルギーミックスを検討するため、総合資源エネルギー調査会のもとに「長期エネルギー需給見通し小委員会」を設置(昨年12月)。2014年4月に閣議決定された「第4次エネルギー基本計画」(:新エネルギー基本計画)に基づき、長期的なエネルギー需給の見通しについて検討されてきたもので、このたびエネルギーミックスの案がまとまり、これについての意見公募(パブリックコメント)が求められている。  

案にかかる趣旨説明では、「安定供給、コスト、環境負荷、安全性を基本とし、現実的かつバランスの取れたエネルギー需給構造を実現する」「震災前よりも原発比率を低減する」などとしているものの、しかし、その内容をみると、「原子力発電の比率を20%~22%」にとしていることにくわえ、「火力発電は56%」(LNG:液化天然ガス27%、石炭26%、石油3%)を占めており、期待された「再生可能エネルギーは22%~24%」(内訳は、太陽光発電が7%、風力発電が1.7%、バイオマスが3.7~4.6など)にとどまっている。これらは3.11大震災・福島原発事故を経験して後、大多数の国民が望んだ原発ゼロを無視し、原発事故被害の実態を無視した愚策と言わざるを得ない。重ねて3.11を契機に世界の潮流は、脱原発、省エネ・再生可能エネルギーへと大きくシフトしているにもかかわらず、事故当事国でありながら、示された再生可能エネルギーの比率が極めて低いことに疑念は深まるばかりである。 

また、今回のエネルギーミックス検討においては、常時意見を出すことができる「意見箱」が設置されたことは評価できるが(現在、意見箱は終了)、寄せられた意見は、長期エネルギー需給見通し小委員会において席上配布の上、議論の参考にするとしたものの、個々の意見への回答は行われていない。 

東京・生活者ネットワークは、以下8項目をもって、あらためて開始したパブリックコメントについての意見とするとともに、パブリックコメント終了後は、今度こそ公開・公正を原則に一項一項十分に検討が行われ、さらに結果への説明責任が果たされ、案の飛躍的改善がはかられるべく要請するものである。

 

(1)  3.11後の、新たな持続可能なエネルギービジョンに立脚すべき

原発事故の経験を経て、わが国のエネルギー政策は、抜本的な転換を迫られている。原発事故の教訓を踏まえ、エネルギーミックスは原発ゼロ社会の実現を前提に策定すべきである。そもそも昨年のエネルギー基本計画策定時に、原発に依存しない、持続可能な社会を実現するためのビジョンをこそ構築すべきであった。原発を限りなく低減するといいながら、ベースロード電源として温存する基本計画に基づいてエネルギーミックスを構築すれば、今回の案は当然の帰結とさえいえるが、示された案は、非現実的な原子力維持目標に固執し、再生可能エネルギーの導入や省エネルギーを軽視し、気候変動対策をも停滞させることとが大きく危惧される。今こそ、新たなビジョンをもって、省エネと再生可能エネルギーによるエネルギー政策の大転換をはかるべきである。

日本は、これまで使用するエネルギーの多くを海外に頼ってきているが、エネルギーセキュリティの観点からも、エネルギー自給率を高める必要があることはいうまでもなく、原子力発電をエネルギー自給の計算に入れるべきではない。全てのウラン燃料は海外に依存しており、燃料の採掘、製錬、製造、輸送はもとより、果ては使用済み核燃料の気の遠くなるような貯蔵に至るまで、環境汚染や被曝労働被害などの多くのリスクを抱えている。さらに、ひとたび事故が起これば、3割近くも占めていた電源がたちまちゼロになる不安定極まりない原子力発電への依存は、結局は代替エネルギーとしての火力発電への依存に繋がっていくことになった。事故後の電気料金の高騰、膨大な化石燃料費用が海外に流出する状況を招いたのは、原子力発電という本質的に不安定な電源へ依存してきた結果であるとの反省に立てば、原発推進への回帰ではなく、原発依存からの脱却をこそ選ぶべきである。

地球温暖化問題でも同様、原発はCO2を排出しないなどといいながら、温暖化対策を原発に頼ってきた結果、原発が稼働しない今日、火力発電の炊き増しにより、CO2の排出量をいや増やすことになっている現実を直視すべきである。

再生可能エネルギーは、固定価格買取制度(FIT)の導入によって、ようやく普及が飛躍的に加速するかに見えたが、昨年の接続保留問題から、接続可能量を決めて抑制する政策の見直しが行われ、推進に水をかけられた感がある。原発をベースロード電源としたために、動いてもいない原発の出力分をあらかじめ計画に載せることによって、再生可能エネルギーの接続可能量が低く抑えられ、系統連系が制限されたり、出力抑制がかけられる可能性が広がるという事態が起こっている。つまり、原子力発電への依存が再生可能エネルギーの導入を現実に阻害するようになっているのである。

このように、原発への依存が、日本のエネルギー政策をゆがめてきたことは明らかであり、エネルギーセキュリティ、気候変動の危機、福島第一原発事故の教訓を踏まえ、原発からの撤収、エネルギー消費量と化石燃料依存を大きく減らし、日本に豊富にある自然エネルギーを基調とする、分散型のエネルギー供給システムの構築にこそ注力すべきである。そもそも原発を温存するのか、原発ゼロへの舵を切るのかの国民的合意はすでに、2012年の国民的議論によって決着しているはずである。新たなエネルギービジョンに立って、再生可能エネルギーとエネルギーの効率利用を基調とする、分散型のエネルギーシステムの構築へ舵を切るべきである。 

(2)  非現実的な、高すぎる原子力の比率は、国民の大多数が支持しない

2030年の原子力発電を2022%も見込むことは、現時点で一基も稼働しておらず、40年を経過した、あるいは経過が近い原発が多数存在することからも、非現実的な想定といわざるを得ない。国内にある原発は、3.11以降廃炉が確定した数を除くと現在43基。原発事故のあと導入された運転期間を原則40年とする制度をすべての原発に適用した場合、次々に運転期間を終了し、2030年度の時点で運転中の原発はおよそ20基となり、発電できるのは総発電量の15%程度にとどまる。2022%を達成するには原則40年に制限された運転期間を、一部の原発で延長することや一定の稼働率を確保することなどが必要になってくる。

経済産業省は、原発の新設やリプレースは想定しないとし、複数の原発の運転期間延長と一定の稼働率の確保によって実現可能としているが、本当にそうなのか、おおいに疑問である。過酷事故によりこれほどの被害を受けながら懲りずに新設などを目論んでいるのではないかと勘繰りたくもなってくる。

現在、原発は1基も稼働しておらず、総発電量に占める原発比率は0%である。再稼働に必要な原子力規制委員会の審査に合格した原発は、九州電力の川内原発と関西電力の高浜原発の合計4基だけで、運転期間の延長が認められた原発はまだない。また稼働率も、2000年代に入りトラブルや不祥事、地震などの影響による長期停止などがあり、70%を下回ることが多くなっていたところ、今後稼働したとしても厳しい規制下での稼働であれば、70%以上の安定した稼働率を保つことはおぼつかないと考えられる。何はともあれ、実際に2014年度の設備利用率はゼロである。

経済性が問題とされるが、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じた福島原発事故の損害賠償や、除染・中間貯蔵施設建設等のために10兆円を超える資金が東京電力支援のために使われており、原発のコストはこれらの社会的費用も含めて評価すべきは当然の理である。事故の処理も終息しておらず、汚染地域の除染・再生も目処はたたず、被害者の生活再建・保障も道半ば、放射性廃棄物の処理・処分問題にも決着がついていない状態で、原発のコストが安いと結論付けるなどは論外、到底納得を得られるものではない。原発の安全性を高めるための追加設備費用も、新規制基準が「安全性の確保」を実現しているとはいいがたいという主張があり、これを採用した司法判断もなされるなど、今後、規制基準のさらに厳しい見直しが迫られることは必定、さらにコストを押し上げることになろう。社会的費用や追加安全対策費用を適切に含めれば、原発のコストは0安価どころか、むしろ青天井であるというべきである。

政府は、原子力発電が直面している困難を正しく認識し、福島原発事故の被害を直視し、原発依存からの脱却を求める国民の声に耳を傾けるべきである。 

(3)  再生可能エネルギーを50%に! 欧州に匹敵する意欲的な拡大目標を掲げるべき

再生可能エネルギーは環境負荷が低く、純国産のエネルギーである。これを増やすことを、最優先にすべきである。資源小国日本のエネルギーの未来は、再生可能エネルギーにしかないという認識にたつべきである。

案では、再生可能エネルギーを倍増の2224%としているが、ここにはすでにある大規模水力も含まれ、約9%を占めているので、風力、太陽光、地熱、バイオマス、小水力などの本来の自然エネルギーは1315%程度にしかならない。脱原発を決めたドイツだけでなく、原発を維持するイギリスでも2020年に30%という目標をたて、欧州全体でも2030年に45%になる目標を決めている。米カリフォルニア州は2030年に50%をめざしており、諸外国に比しても、貧弱な目標にすぎる。現在よりも省エネによって需要量を30%減らすことを前提に、再生可能エネルギーを欧州に匹敵する50%に増やす目標を掲げるべきである。 

再生可能エネルギーの拡大施策である固定価格買取制度(FIT)は成果を収めつつあり、太陽光発電を中心に再生可能エネルギーは本格的に普及し始めた。さらに再生可能エネルギーの優先接続を確立するなどの拡大に資する見直しこそがおこなわれるべきで、現在の、とくに太陽光発電についての抑制的制度改正は誤っていると言わざるを得ない。

再生可能エネルギーの導入コストは、世界的な導入の加速に伴い低下しており、コスト高といわれる太陽光発電でも、グリッドパリティ(*)に近づいている。ドイツではすでに20102011年に太陽光発電(家庭用)においても達せられたとのことである。再生可能エネルギーは、中長期的にみれば、安全対策や事故、環境対策等費用の面からも、最も安価で安定したエネルギー源であり、優先的にその導入を促進する制度設計を行うべきである。 

*グリッドパリティ:再生可能エネルギーによる発電コストが既存の電力のコスト(電力料金、発電コスト等)と同等かそれより安価になること 

(4)  世界の温暖化対策に逆行する石炭火力の増強は容認できない

案は、石油と天然ガスを現状から大幅に減らす一方で、CO2排出量の最も多い石炭火力発電をベースロード電源と位置付け、安価なエネルギーとして温存させる案となっており、石炭火力発電の割合を大きく減らそうという世界の潮流から逸脱するものである。

実際、日本では石炭火力発電の増強計画が相次いでいる。しかし、最新型でも1kWhの電気をつくるときに排出される二酸化炭素は、天然ガス発電の2倍となることから、計画中の石炭火力発電が全て動きだせば、日本の温室効果ガス排出量は大幅に増加してしまう。2015年末にパリで開催される予定のCOP21において、新たな地球温暖化対策の強化がめざされているときに、世界の努力に逆行する石炭火力の増強はやめるべきである。 

(5)野心的な省エネの想定こそが求められる

持続可能な社会づくりのためには、まずは省エネを最優先にすべきである。経済成長を前提にするとしても、経済成長に比例してエネルギー需要が高まるという古典的な手法による想定をする必要はない。2030年のエネルギー需要予測を低く想定したうえで、省エネの目標を高く設定すべきである。

東京都は、国に先駆けてキャップ&トレードの制度を導入した結果、削減義務を課された対象事業所は5年間で平均20%を超える削減を達成できた。東京のみならず、大震災後の電力ひっ迫への取り組みによって、大幅な省エネがやればできることが証明されている。骨子案の17%の省エネ想定は低すぎ、少なくとも30%削減を目標とすべきである。 

(6) 「ベースロード電源」という考え方の見直しが必要である

原子力発電や石炭火力などを「ベースロード電源」として位置づけその比率を6割程度維持する案が示されているが、これを基本に電源構成を確保するという考え方は、これまではともかく、電力システム改革に舵をきったわが国にはすでにふさわしくない。

電力自由化や発送電分離が行われている欧州では、「ベースロード電源」という発想にかわってメリットオーダー方式により、電力取引市場から、最も安価なエネルギー源として、風力などの再生可能エネルギーが率先して取引されている。日本でも、現在すすめられようとしている電力自由化の中で、各電源はその価格のみならずその特質においても競争し、取引され、需要と供給の駆け引きによってその割合も変動していくことになろう。原発や石炭火力をベースロード電源として位置付け、優遇することは、市場競争をゆがめ、電力システム改革の意義を損なうことに繋がると考える。政策的誘導の入り込む余地があるとするならば、それは再生可能エネルギーの推進にこそ、向けられるべきである。 

(7) 「電源別コストの試算」は、公正に算出し公表するべき 

エネルギー種別ごとの長所短所を比較する際には、発電時のみではなく、エネルギーのライフサイクル全体を捉え、環境影響や、廃炉・安全対策・廃棄物処理費用等を含めて評価するべきである。特に、原子力発電のコストは部分的に開示され、全体像が見えにくく、データ自体の信頼性が低い。原発はコストが安いと位置づけながら、原発の優遇制度は維持され、固定価格買い取り制度と同様のCfD(差額決済契約)制度の導入や核燃料再処理への拠出金など、さらなる追加優遇策をも検討している。このような整合性のない、信用性のないコスト試算を見直し、矛盾のない制度設計が必要だ。そのためには、電力会社にデータを公表させ、エネルギー種別、電源別コストを試算、評価し、電源割合についての議論に資するものとすべきである。

また、再エネのコストと位置づけられる系統安定化費用や送電インフラ整備等のコストは、本来、エネルギーの安定供給のために必要な公共インフラであり、全体のコストと位置づけるべきである。 

(8)  合わせて温暖化防止のための排出量削減目標を意欲的に立てよ

エネルギーミックスの案の公表と時を同じくして、環境省・経済産業省の合同審議会において、日本の新しい気候変動対策目標案として、「日本の約束草案要綱(案)」が提示された。それによれば、日本の目標は、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年比で26%削減の水準にするとある。

このわが国の削減目標は、国際的な共通目標である「世界的な気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑えること」に十分に貢献するものとなっているとはいいがたいばかりか、すでに閣議決定されている2050年までに80%削減という目標とも整合していない。2050年までに80%削減を達成するためには、2030年の削減目標は90年比で4050%、2013年度比では、もっと高くなる。

この達成のためには、エネルギーミックスにおいても、再生可能エネルギー比率をさらに高める必要が生じる。エネルギーミックスの議論の中でも省エネの見通しが出されているが、現在の案は意欲的とはいえない。温暖化防止のための排出量削減目標についても、再エネ・省エネの可能性を徹底的に見直し、少なくとも30%以上の削減目標にするべきである。また、2013年という基準年が採られている点も問題である。2013年を基準にすると、90年比で示すよりも削減幅が大きくみえ、また諸外国との比較においても有利となるという小細工に他ならず、日本の国際的信用も損ねるものである。

エネルギーミックスにせよ、温暖化防止排出量削減目標にせよ、低い省エネ、削減目標からは、エネルギー効率分野で世界の先頭にたち、世界の温暖化防止対策を牽引していくという意欲が見えない。エネルギーミックスにおける高すぎる原子力や石炭火力の割合からは、過酷事故の反省に立ち、エネルギー政策を転換していく決意が感じられない。目先の経済効果に目を奪われて、低炭素社会へ向けての変革を後回ししていては、持続可能な世界をつくる国際的な責任を果たすことはできないと考える。

   以上

 

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